日本大使館≪八月二十三日≫ -壱-日本大使館とこれから入国する各国のビザを取るのに便利であ ると言う事、その上腰まで浸かる風呂に入りたいと言う事もあって、会長と 鉄臣の二人を残して、新華南峰旅社からマレーシアホテルに移る事にした。 もちろん安いとか、いろんな要素を含めても、情報収集やくつろぎを 考えて、マレーシアホテルをバンコックの拠点とすることに決めた。 環境はずっと良い所にある。 近くには、アメリカ大使館、Jトラベル、ルンピニー公園、アートコー ヒー、タイ大丸などがある。 そんなわけで、今日は朝から重いバックパックを背負い、暑い 陽ざしの中満員のバスに乗り込んだ。 残念ながら、二人部屋(84バーツ/部屋≒1260円)が満室で、仕方なく 三人部屋(104バーツ/部屋≒1560円)に二人ずつ入る事になった。 部屋の中には、シングルとダブルベッドが一つずつ備え付けられてい て、バス・トイレ付き。 一人52バーツ(≒780円)と少々高いのがネックなのですが、久しぶり に湯船に浸かれると、皆大騒ぎなんです。 他の三人は皆私より若くて、同室は22歳の若狭君。 とにかく、旅社と違ってホテルという名が付いている通り、非常に気 に入ってます。 これでサービスが良いといいのですが、チップを払う事を考えたら、 まあまあ・・・・かな。 日本を出て初めて湯船に(朝風呂)浸かった後、ホテルの下で 食事を取り、タイ大丸にも顔を出すことにした。 大丸は、もちろん日本の企業で、香港にもあった百貨店です。 バンコック市内でも一ニのデパートらしく凄い人、人、人。 店内は冷房が効いていて、学生服を着た女の子達が、ショーウインド ウを覗き込みながら楽しんでいる様子は、あまり日本と変わらない風景とで も言いましょうか。 この地下に、”ジュナス”という喫茶店がある。 これはもう、日本の喫茶店と同じで、日本の新聞・雑誌などが多数置 かれていて、割と日本人観光客が多いかな。 新聞を見てみると、21日付けのものがありました。 紙面には、甲子園・決勝進出の記事とか、ロッキード事件の記事など が、デカデカと書かれている。 ウエートレスも結構いるのですが、ほとんどが地元の女の子ばかり。 サービスはいいのですが、少々値段が高いので、コーヒー一杯で何時 間も粘ることにした。 もちろん日本食もやっている。 ちょっと冷えすぎたかな? 暑い陽ざしも参るのですが、このクーラーも長い時間いると身体にき つい。 14:20、マンガ本の読みすぎで、首が痛くなってきたのか、一 人が日本大使館に行ってみようということになり、喫茶店を出る事にした。 婚約者を日本に置いてきた政雄君が、日本からの手紙に飢えているの です。 他の皆も異論はありません。 この大丸から日本大使館までは、一本道なのですがかなり遠い。 バスで行ったほうが良いに決まっているのだが、そこは暇人たち。 暑い中を歩く事になりました。 汗を滲ませながら、踏切を渡り、どのくらい歩いたのか。 やっと到着。 大きな十字路の角地にあり、敷地も広く建物もなかなか立派な物。 入り口では、数人の現地採用の警備員が睨みを効かしているが、何の チェックもなくすんなり入る事ができた。 大使館は8:30~12:00まで。 昼から・・・何をしているんだろうかな。 昼からは閉まっているなんて、困りますよね。 レターボックスだけは、大使館が閉まっても、いつでも見る事ができ るのですが、これもちょっと困りますよね。 誰でも、他人の手紙を失敬する事だって出来るんですから。 国民の安全とお世話をする為にあるはずの大使館が、サボってるんだ よね。 旅行者がかなり多いせいか、レターボックスはかなり大きく、 アルファベット(名前)に仕分けはされている。 日本のことが気になるのか、残してきた彼女のことが気になるのか、 自分のアルファベットの所に手紙がなくても、”ひょっと、他に紛れ込んで いるかも?”なんて考え、全てを見てみないと気がすまないのだ。 この日初めてレターボックスを覗いたが、日本からの便りは届 いていなかった。 他の三人も手にする事はなかった。 便りが来ていないことを確認に行ったのではあるが、実際便りを手に する事ができなかった寂しさ・・・やはりショックだったのか、皆黙り込ん でいる。 若狭 「考えてみりゃ・・・俺の友達なんか、外国へ手紙出し た事ない奴らばっかりだから、・・・それに、今何処 を旅してんだか、何処へ送ればいいのかわかんないだ から仕方ないか!」 皆 「それもそうだよな。」 今日の仕事?はこれにて終了。 香港の食べ物には少々口に合わなかったけど、タイの食事は何 とかいけそうだ。 食事にも海外での旅にも少し慣れてきたようだ。 良く食べ、良く飲み?、良く眠る、これさえ守っていれば何とかなり そうに思ってきた。 反面、金のなくなるのが早い。 まだ始まったばかりだというのに、お金が見る見る減っていくのが分 かる。 今日はマレーシアホテルのロビーで一人の日本人青年に会う。 もう彼の旅は終わりに近づいている、タイでの生活はかなり長かった とようだ。 彼 「何日か前の話なんですけど、タイの美人に(娼婦)声を 掛けられて、ついて行ったのは良いんですが、相手は二 人いたもんで両方には気がいかなくて、TCやらパスポー トなど気が付いたら全部やられていましたよ。」 俺 「二人ってのは、流行ですか?」 彼 「そうみたいですね。」 俺 「どうするんです?」 彼 「金もありませんから、TCとパスポートが再発行されるの を待ってます。」 俺 「分かってんだけどね。」 彼 「そうなんです。」 こんな彼の話を聞きながら、今日もくれようとしている。 隣の部屋では、相変わらずタイの女の子達が内職に勢を出している音 が聞こえてくる。 彼が目的を達したのかどうか聞くのを忘れてしまった。 |